研究概要 |
本年度は、1)イオン性ゲスト分子とシクロデキストリン(CDx,ホスト)との相互作用機構の解明、2)クーロン相互作用を利用した不斉認識、および3)水中における水素結合生成とそれを利用した不斉認識について研究した。 CDxはアニオンをその疎水的空洞に包接することはよく知られている。一方、ピリジニウムやアニリニウムのようなカチオン性のゲスト分子は包接され難い。種々検討した結果、CDxの疎水的空洞と言われてきた環境は微視的には正に分極し、アニオン性のゲスト分子の包接に適するが、カチオン性ゲスト分子の包接は静電反発により妨げられると結論した。この考え方はこれまで提唱されておらず、新しい包接概念として注目される。 次に、クーロン力を利用した不斉認識につき検討した。CDxはアミノ酸のような中心キラリティーの認識を苦手とするホスト分子である。事実、β-CDxは未修飾アミノ酸やN-アセチルアミノ酸の不斉を認識することはできない。そこで今回、CDxの一級水酸基をアミノ基に変換したアミノ化β-CDxを用いてN-アセチルアミノ酸の不斉認識を検討したところ、プロトン化されたアミノ化CDxがアミノ酸アニオンとクーロン相互作用で結合する際に、ゲスト分子の不斉を認識することを明らかにした。 水中での水素結合の形成は一般には困難である。しかし、CDxの二級水酸基は比較的CDx空洞の疎水性の影響で、カルボキシラートアニオンと水素結合できることを明かにした。この現象を利用して、ヘリセンのヘリシティーのCDxによる認識に成功した。
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