水中の分子錯体生成機構とその分子配向を決める因子について研究した。まず、水中におけるvan der Waals(π-π)相互作用についき検討した。研究対象としてはメソ位にカチオン性のピリジニウム基を持つポルフィリンを用いた。meso-tetrakis[4-(N-methyl)pyridinium]-porphyrin(TMPyP)の^1H NMRを3個のピリジニウム基と1個のフェニル基を有するTriMPyPや2個のピリジニウム基と2個のフェニル基を持つDiMPyPのそれと詳細に比較検討した結果、TMPyPは水中でモノマーとして、他のポルフィリンはダイマーとして存在することが明かとなった。結論として、正電荷がポルフィリン環に非局在化している場合には、3価の正電荷同士の静電反発に打ち勝つほど強いvan der Waals力(π-π相互作用)が、ポルフィリン環の間に働くことを見いだした。これで長年にわたる論争に終止符をうつことができた。 第二の成果として、シクロデキストリン(CDx)へのイオン性ゲスト分子の包接機構の新しい考え方の提出がある。CDxの疎水的空洞と言われてきた環境は微視的には正に分極し、アニオン性のゲスト分子の包接に適するが、カチオン性ゲスト分子の包接は静電反発により妨げられるという説である。この説により多くの包接現象が説明できるようになった。 第三にクーロン力を用いた不斉認識につき検討した。CDxはアミノ酸のような中心キラリティーの認識を苦手とするホスト分子であるが、プロトン化アミノ化β-CDxはアニオン性のキラルゲスト分子の中心不斉を認識し、この際、クーロン相互作用が使われることを明かにした。今後、不斉認識の効率を上げることが課題として残っている。
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