通常の有機分子では電導に関与できるキャリヤ-が存在せず絶縁体となることから、単一成分有機導体の設計にはHOMO-LUMOギャップの小さい分子をつくることが極めて重要である。本研究では電子供与性の複素環と電子受容性の複素環を連結させたドナー-アクセプター系分子で小さなHOMO-LUMOギャップを実現した。例えば、非古典的構造のビスチアジアゾロベンゼン誘導体はp-ベンゾキノンに匹敵する高い電子親和性を持ち、電子供与性の置換基を導入することで新規なドナー-アクセプター系を構築した。ドナー性とアクセプター性を調節することでHOMO-LUMOギャップを制御できることを示した。合成した分子の中には最長吸収波長が1345nmを示すものがあった。また、チアジアゾール環のS…N相互作用によってテープ状のネットワークが形成されることを見つけた。これらの分子で単一成分導体は実現できなかったが、イオンラジカル塩とすることで特異な電導体に導くことができた。例えば、非平面型のビス(1、3-ジチオール)ドナーから金属的性質を示すカチオンラジカル塩が得られ、物性が包接される溶媒分子により大きく依存することを見つけた。小さな有機分子ではこれ以上HOMO-LUMOギャップを小さくすることは困難であったので、共役を伸ばしたポリマーでギャップの縮小を測った。ポリマー化はチオフェンおよびピロール置換体の電解酸化により行った。これらのポリマーはp-ド-ピングもn-ド-ピングも受ける両性のポリマーでバンドギャップは従来合成されたものに比べて著しく小さく、電気化学的バンドギャップがほとんど0のものも得られた。ポリマーは溶解性がなく取り扱いが困難で、構造の均一性にも欠けることから、構造が明確で溶解性に優れたオリゴマーの合成に研究を展開した。
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