L-システィンやその誘導体である含硫有機配位子を配位した単核錯体は、硫黄原子の高い求核性のため種々の金属イオンに容易に架橋配位して多核構造を形成すると考えられる。そこで、この様な単核錯体それ自身の結合様式あるいは反応させる金属イオンの結合様式に依存して、構成単位である単核錯体部分の構造を保持したまま、新規な多核構造を制御した形で組織化できる可能性を追求した。まず、含硫有機配位子を配位した9族の八面体型単核錯体と、直線性の配位様式をとると考えられる金属イオンとの反応性を追及し、単核錯体部分の構造を選択的に保持する硫黄架橋多核核錯体の合成経路を検討するとともに、多核構造と配位様式との関係及び多核錯体自身の諸性質を追求した。また、これら多核錯体間の相互構造変換についても詳細に検討した。一方、10族の平面構造単核錯体は、平面型構造をとる金属イオンと容易に反応し、平面構造を保持したまま硫黄架橋の三核錯体や六核錯体を形成する。そこで、平面構造単核錯体と2つの配位座を置換不活性な配位子で制御した平面型金属イオンとの反応性と、これら配位様式を制御した平面型金属イオンと形成する多核構造との関連性を追求した。この際、平面構造と八面体構造との変換を伴う新規な硫黄架橋二核錯体の生成を確認するとともに、得られた代表的な錯体について、X線結晶解析法により固体中の立体化学を考察した。多核構造を制御した形で組織化したこれら錯体の酸化還元挙動や、分光化学的、立体化学的性質について検討し、溶液中の構造も解明した。さらに、八面体型単核錯体と平面構造を取る金属イオンとの反応性についても検討し、多核錯化合物の選択的な組織化に対する単核錯体や金属イオンの配位様式の役割、諸物性や機能性の解明を進めている。
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