平成8年度は平成7年度に引続き、基本的系列の単核錯体と金属イオンから組織化される硫黄架橋多核錯体を企画し、結合様式に基づく選択的な組織化の面から多核構造生成の制御の可能性を追及した。まず、3つの架橋可能な配立硫黄原子を有する9族の八面体型単核錯体と水銀(II)イオンとの反応では、水銀が直線性の配位様式をとることを昨年度報告した。この水銀(II)イオンが四面体構造をとる多核錯体の生成の可能性も考えられるので、その生成条件を検討するとともに、得られた多核構造と配位様式との関係及び多核錯体自身の諸性質を追及した。また、これら多核錯体間の相互構造変換についても詳細に検討した。一方、9族の八面体型単核錯体と10族の平面型構造をとる金属イオンとの反応において、八面体単核部分の部分的な配位子移動を伴う新規5核錯体の生成を明らかにした。この場合、10族金属イオンは平面型構造を有していた。さらに、これまで生成が困難であるためほとんど生成されていない架橋可能な2つの配位硫黄原子のみを有する八面体型単核錯体と、種々の金属イオンとの反応で得られる多核錯体に関しても、その立体化学や反応性について追求した。得られた代表的な錯体について、X線結晶解析法により固体中の立体化学を考察した。多核構造を制御した形で組織化したこれら錯体の酸化還元挙動や、分光化学的、立体化学的性質について検討し、溶液中の構造も解明した。多核錯化合物の選択的な組織化に対する単核錯体や金属イオンの配位様式の役割、諸物性や機能性の解明を進めている。
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