単核錯体を配位子と見なし、種々の配位様式を有する金属イオンと反応させて、選択的な集積化による多核錯体創成の可能性について検討した。まず、硫黄原子との親和性が乏しく、不対電子を有し、比較的置換活性で反応性が高い6族元素であるクロム(III)を、3つのチオラト基を有する6配位八面体型構造の単核錯体および反応させる金属イオンとして選択した。特異的な集積化の結果として得られた多核錯体に対して、不対電子に基づく物性や空間を通した金属の電子間相互作用について検討した。次に、単核錯体と直線型配位様式を取り得る金属イオンとの反応性を追求した結果、5つの中心金属原子が3方両錐型構造を取る5核錯体が選択的に生成することを明らかにした。特に、直線型構造と四面体型構造を取る水銀(II)イオンとの反応では、反応条件を制御することにより、配位様式に依存する5核錯体と8核錯体に集積化した。一方、2つのチオラト基を有する単核錯体と平面型構造を取りやすいパラジウム(II)イオンとの反応では、パラジウム(II)イオンまわりの配位様式が、塩化物イオンにより4配位構造と5配位構造に制御され、2核錯体と3核錯体あるいは6核錯体に集積化することを明らかにした。2つの平面型単核錯体間の反応では、配位座を修飾することで生成する多核構造を制御できた。最後に、チオラト基を有する単核錯体は、硫黄原子上が容易に酸化され複数の硫黄酸化生成物を生成するが、酸化条件を制御すると、単核錯体同士がジスルフィド結合で結ばれた2核錯体を選択的に生成することを明らかにした。以上の様に金属イオンの配位様式に依存して選択的に集積化した複数の多核構造では、それら構造間の相互変換も認められた。また、得られた多核錯体の物性や機能性についても追求した。
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