前年度に引き続き、多様な構造を取り、クロモトロピックな挙動をすると考えられうる単核、複核、多核錯体の合成を試みた。明らかになった点は、主に以下に示す様な事である。 (1)まず、混合配位子錯体の生成に関して:今まで、混合配位子錯体の生成要因については、議論されているところであるが、その主なものは、(ア)立体効果、(イ)電子的効果が考えられる。我々が検討した系は、2種の配位子が、一方はパイ電子供与体、他方は受容体となるもので、パイ・ドナー/パイ・アクセプター相互作用の期待されるものである。今までに明らかにされていなかった配位子間の相互作用を計算と実験の双方から明らかにした。配位子間電荷移動吸収帯が見られることを明らかにした。 (2)新しい単核および多核錯体生成の可能性を持つ新しいトリケトンが、はじめて合成された。これは、ベータジケトンを2個背中合わせに結合させる際、間に炭素を一つスペーサーとして入れたものである。今までの報告では、テトラケンが生成すると報告されていたものであるが、同一条件下で行ったにもかかわらず、トリケトンになる結果を得た。今まで報告にあるこの種の配位子を用いた錯体の(他の研究者の)論文が誤りである事を明らかにし、新しいクロモトロピックな系を発見した。 (3)新しいタイプのパラジウム複核混合配位子錯体を合成することが出来た。これは、我々が今までに検討してきた混合錯体の生成要因とは違った思想で生成するものである。いわゆる反応速度の違いを利用する。
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