研究概要 |
ホヤの血球細胞の中には、95%以上の3価バナジウムイオンと5%以下の4価バナジウムイオンが硫酸イオンと共存して存在している。従って、水溶液中における3価および4価バナジウムイオンと硫酸イオンの相互作用を調べることは、生物学的にも大きな意味を持つ。そこで、VOSO_4とV_2(SO_4)_3の水溶液のラマンスペクトルを測定した。これらのバナジウム塩水溶液のスペクトルには、フリーの硫酸イオンに帰属されるバンド以外に、VOSO_4 では、1056cm^<-1>に1本、V_2(SO_4)_3では、1012,1041,1059cm^<-1>に3本のバナジウムに配位した硫酸イオンに帰属できるバンドが観測された。これは水溶液中で硫酸イオンがバナジウムに直接配位することによって、硫酸イオンの対称性が低下し縮重振動が分裂したために現れたものと考えられる。遊離の硫酸イオンによる983cm^<-1>のバンドと1060cm^<-1>付近のバンドとの相対強度は、4価硫酸バナジウムの場合よりも3価硫酸バナジウムの方がかなり大きく、3価バナジウムイオンと硫酸イオンの会合定数が4価バナジルイオンとのものより大きいことを示唆している。3価硫酸バナジルのスペクトルで、1012と1041cm^<-1>に2本のバンドが観測されたことは、興味深い。すなわち、硫酸イオンがバナジウムに単座配位した場合は、硫酸イオンの対称性はC_<3V>に低下し、1060cm^<-1>付近に1本の強いバンドが現れることが、単座配位した硫酸イオンを含む固体のラマンスペクトルから明らかにされている。従って、1012と1041cm^<-1>の2本のバンドは、キレート配位した硫酸イオンの振動と考えることができ、3価硫酸バナジウムの溶液中には、2種類の形式で配位した硫酸イオンが存在することがわかった。
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