研究概要 |
二核鉄酸素錯体は,酸素運搬体であるヘムエリスリン,酸化・酸素化触媒として作用するリボヌクレオチドリダクターゼ,メタンモノオキシゲナーゼの反応中間体モデルとして,これらタンパクの構造および機能を解明するうえで重要である。しかし,二核鉄酸素錯体は非常に不安定であり,構造および詳細な物性研究はなされていない。本研究では,多数のアルコキソあるいはフェノキソ架橋基を持つ2核化配位子を設計・開発し,それらの立体的・電子的効果による二核鉄酸素錯体の熱的安定性および酸素親和性の制御を行った。 得られた二核鉄(II,II)錯体と酸素との反応を検討した結果,酸素錯体の熱的安定性および酸素親和性の制御は,以下の方法により可能であることがわかった。 1)配位原子の近傍に立体的にかさ高い置換基を導入することにより,配位子の電子供与能を弱め,さらにそれら置換基が酸素結合部位を取り囲む疎水的空間を形成することによって不可逆的酸化が防止できる。 2)2核化配位子の架橋骨格によって酸素親和性の制御が可能である。これらの結果を基に新規に設計・開発した[Fe_2(Ph-bimp)(OBz)(H_2O)]^<2+>(Ph-bimp=2,6-[bis(3-methly-4,5-diphenylimidazolylmethyl)aminomethyl]-4-methylphenolate)は,ヘムエリスリンと同程度の非常に高い酸素親和性(P_<1/2>=2Torr at20℃)を示し,かつ室温でも可逆的酸素化能を持つことを明らかにした。また世界で初めて酸素錯体の結晶化に成功し,これまで構造が不明であった二核鉄酸素錯体の構造を明らかにした。
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