研究概要 |
1,6-diaminopyrene(DAP)の電荷移動錯体のいくつかが異常な電気物性を示すことから、系統的に電子受容体を変化させて、その構造・物性を調べている。 まず、第一のグループはp-chloranil(CHL)に代表される交互積層型の構造をとる中性の錯体であるが、これまでの常識から判断すると、この構造・電子状態をとる結晶が導電性を示すということは期待できない。しかし、DAP-CHL錯体は、10^0Ωcmという極めて高い導電性を示す。類似の電子受容体であるp-bromanil,2,5-dibromo-3,6-dichloro-p-benzoquinoneとの錯体の場合でも、同様の高伝導性を示す、中性交互積層型錯体が得られることが分かった。しかし、p-bromanilと同程度の電子受容性をもつBTDA-TCNQとの錯体では、同じく中性交互積層型構造となったが、高伝導性は生じず、この原因を現在調べている。 もう一つのグループは、TCNQとの錯体に代表されるイオン性の分離積層型の構造をもつ結晶である。この場合も、完全にイオン化しているため高伝導性は期待できないが、実際には温室で10^<-1>Ωcmという高い導電性をもっている。しかし、高伝導性と矛盾する極めて大きい活性化エネルギーをもつという特徴をもつ。このグループの錯体として、新たにDMTCNQ,FTCNQ,F2TCNQ,DMDCNQI,TCNEを電子受容体とするものが加わった。いずれも完全にイオン化した分離積層構造をもつが、導電性は10^<-1>〜10^3Ωcmと電子受容性の変化が関わっている可能性を示した。 上記の2つのグループで共通の興味ある点は、導電性と水素結合パターンとの関連性が示唆されたことで、この系での小さな伝導度の異方性とともに水素結合が導電機構に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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