研究概要 |
固体表面を場とする二次元空間反応の研究において、本年度は反応場である固体表面上に単分子膜をつくり、隣接分子間で反応させた。具体的には、213Kのグラファイト劈開面上にC≡C基をもつ長鎖状分子、hexatriacontadiyne(HTDY,C_<16>H_<33>C≡CC≡CC_<16>H_<33>)とdotoriacontatetrayne(DTTY,HC≡CC_<12>H_<24>C≡CC≡C-C_<12>H_<24>HC≡C)の蒸着膜を作り、超高真空下で真空槽の窓から紫外線を照射して分子間における反応過程をペニングイオン化電子分光(PIES)と紫外光電子分光(UPS)で追跡した。その結果次の知見が得られた。 (1)UPSに比べて、表面最上層を選択的に観測するPIESでは単分子膜の反応過程が鋭敏に観測された。 (2)213Kのグラファイト基板上の単分子膜では分子鎖は基板面に平行に配向した。 (3)紫外線照射によって分子間で重合反応が進んだ。その際HTDYでは中央の3重結合が、DTTYは中央と両端の3重結合が重合に関与した。 (4)重合反応の結果、基板上に単分子膜の分子シート(molecular sheet or atomic cloth)が形成された。 上述のように、固体表面を反応場とする分子間反応の過程はPIESによって鋭敏に観測された。このような反応過程が単分子膜で直接観測されたのは、我々の知る限りはじめての例である。また、単分子膜の分子シートが得られたことも今までにないと思われる。今後は反応条件をさらに検討するとともに、他の種類の分子間反応についても研究を進めていきたいと考えている。なお、上の分子間反応の研究の基礎データとするために行った、グラファイトおよびMoS_2基板の清浄化の過程のLEED/AESによる観測、およびそれらの基板上でのPIESによる金属フタロシアニン単分子膜の分子配向の研究は順調に進行し、新しい多くの知見が得られた。
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