研究概要 |
本研究では、申請者らの開発した新規な立体保護基である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Ar基)を用い、その崇高さを有効に利用することで、Ar(R)Si=Y(Y=O,S,Se,Te)のようなケイ素-16族元素二重結合を有する化合物及びAr-Si≡Si-Arのようなケイ素-ケイ素三重結合を有する化合物の速度論的安定化を行い、その合成単離と構造・性質の解明を目的として研究を行っている。 平成7年度の研究成果の概要 1)ArBrから3段階の反応を用いて立体的に非常に崇高い置換基を有するジブロモシランAr(R)SiBr_2(R=Mes)の合成を行い、これを出発物とすることで、空気や湿気に対しこれまでにない高い安定性を有するケイ素-ケイ素二重結合化合物であるジシレン1[Tbt(Mes)Si=SiTbt(Mes)]のシス及びトランス異性体(1a及び1b)の合成単離に成功するとともに、その特異な分子構造をX線結晶解析により明らかにした。さらに、1a及び1bは速度論的には十分安定化されているものの、Ar基の崇高さを反映しそのケイ素-ケイ素二重結合が従来のジシレン類と比較してかなり伸長しており、その結果1a及び1bいずれも熱的に容易に対応するケイ素二価化学種であるシリレン4[Tbt(Mes)Si:]へ解離すること、また4を経由した1aから1bへの異性化が可能であることなどを見出だした。すでに、ジシレンの高周期14族元素類似体であるジゲルメンやジスタンネン[RR´M=MRR´(M=Ge and Sn)]においては対応する二価化学種への熱的な解離反応が報告されているが、ジシレンのシリレンへの熱解離反応は本反応が初めての例であり、画期的知見が得られた。 2)Ar(R)SiBr_2(R=Tip)から合成した新規な含ケイ素環状ポリスルフィドAr(R)SiS_4に対し、リン試剤を用いた脱硫反応を行うことで、初めての安定なケイ素-硫黄二重結合化合物であるシランチオン2[Tbt(Tip)Si=S]を結晶として合成単離することに成功した。さらに、類似の手法を用いることでより高周期の14族元素であるゲルマニウムと硫黄、セレンとの間の二重結合化合物であるゲルマンチオン及びゲルマンセロン[Tbt(Tip)Ge=X;8(X=S)及び9(X=Se)]の合成単離にも成功し、これらの新規な高周期14族金属元素-カルコゲン元素二重結合化合物の分子構造をX線結晶解析により初めて実験的に解明することができた。
|