研究概要 |
本研究では、含ケイ素多重結合化合物の速度論的安定化とその未知なる構造・性質の解明を目的としている。既に申請者らは、これまでにない高い安定性を有するケイ素-ケイ素二重結合化合物、ジシレンAr(Mes)Si=Si(Mes)Ar(1)および初めてのケイ素-硫黄二重結合化合物であるシランチオンAr(TiP)Si=S(2)[Ar=2,4,6-tris[bis(trimethylsilyl)methyl]phenyl,Mes=mesityl,Tip=2,4,6-triisopropylphenyl]を安定な結晶として合成単離することに成功した。これらのさらなる発展として、本年度は、まずジシレン(1)の熱解離により容易に生成することを見い出した嵩高いシリレンAr(Mes)Si:(3)を合成ブロックとして利用し、種々のイソニトリル類との反応を検討したところ、嵩高い芳香族置換基を有するイソニトリルとの反応において、未だ合成例のない含ケイ素累積二重結合化合物であるシラケテンイミンAr(Mes)Si=C=N-Ar′(4)と同じ分子組成を持つ生成物の単離に成功した。種々のスペクトル測定の結果ならびにab initio法を用いた理論計算による研究の結果、化合物(4)のケイ素-炭素間の結合は二重結合性が低く単結合とほぼ同様の結合次数を持っていることが明らかとなった。すなわち、化合物(4)は含ケイ素累積二重結合化合物としてではなく、シリレンの空の軌道に対しイソニトリルの末端炭素上の不対電子対がルイス塩基として相互作用した形の構造をしていることが判った。これは、室温で安定に合成・単離された初めてのシリレン-ルイス塩基錯体である。さらに、得られた錯体(4)の反応性を検討したところ、この化合物は室温溶液中では平衡的に原料に解離することから、シリレン(3)の合成等価体として有用であることが示された。そして、錯体(4)のニトリルオキシド類との反応においては、ケイ素-酸素二重結合化合物であるシラノンAr(Mes)Si=Oの生成を示唆する生成物を得た。次に、系統的なケイ素-カルコゲン二重結合化合物の合成単離には3よりもさらに嵩高い置換基を有するシリレンが必要であると考え種々検討した結果、熱分解によりシリレンAr(Dip)Si:[5;Dip=2,6-diisopropylphenyl]を効率よく与える二環性歪みシラシクロプロパン誘導体を開発した。これを利用することで、溶液中安定なケイ素-セレン二重結合化合物シランセロンAr(Dip)Si=Se(6)を合成することに成功した。
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