パン酵母はβ-ケトエステルを還元することの出来る酵素を4ケもっていることがわかり、それらは個々に単離された。その中で、我々がL-1と名付けている酵素は、他の3ケの酵素と比較して単離が容易であり、反応の立体選択性も極めて優れている。そこで、この酵素を単離した状態で使用することを試みた。この酵素はまた、α位に置換基をもつβ-ケトエステルも還元することができ、そのジアステレオマ-選択性もまた極めて高い。 そこで、エステルのアルコール側と酸側の両方のα位に置換基をもつβ-ケトエステルを還元すれぱ、立体選択性よく3ケの不斉炭素を同時に作ることができるかもしれない。事実、いくつかのエステルで期待通りの反応が振興することを見出した。最も優れた例では、43.6%の化学収率で得られた全生成生物の中の94.4%が純粋に1ケの立体異性体のみから成っている。 生体触媒と人工触媒では、各々に一長一短があることは言うまでもないが、本例は、前者が後者より優れている点を浮き彫りにする結果である。
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