本研究では、新概念と新方法論に基くイオン脂質二分子膜(BLM)透過反応解析法の開発、BLMの持つ特異機能(選択的イオン透過、膜電位・膜電流振動など)の発現機構の解明、BLMの分析化学的利用の化学的基盤の確立、BLMの新利用分野の開拓を目的とした。 平成7年度には、BLM作成装置、微少膜電流高精度測定装置、膜電位印加走引装置を整備し、膜物性評価法を確立した。その上で、各種のBLMを介した各種イオンの移動ボルタモグラム(膜電位-膜電流曲線)を測定し、これを液膜でのイオン移動ボルタモグラムと比較して、BLMでのイオン透過反応を解析した。 平成8年度には、前年度の研究を継続し、1. BLMがイオンを自発濃縮して低抵抗であるとき、超薄膜であるBLMでのイオン透過反応といえども、厚膜である低抵抗液膜でのそれと類似し、イオン透過課程は膜系に存在する2つの水相/膜界面でのイオン移動反応によって制御される、2.イオンのBLMへの自発濃縮性は、イオンの疎水性およびBLMを形成する脂質が持つ官能基とイオンの錯生成の強さに依存する、3. BLMでのイオンの透過性は、BLMへのイオンの自発濃縮性を反映して4つのタイプに分類できる、などを明らかにした。これは、BLMの分析化学的利用に化学的根拠を与えるものである。一方、イオンの膜透過に伴う膜電流、膜電位の振動についても研究し、チャンネルタンパクを含まない膜系においても、"イオンチャンネル"によるとされている生体膜での振動と類似した特性の振動を観察できること明らかにした。また、液/膜界面でのイオン移動反応、吸着反応をボルタンメトリー的手法と概念に依って解析し、振動の発現、誘導、阻害の機構を一般論として提案した。この成果は、振動反応のイオン、分子センシングへの利用の基礎となる。
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