研究概要 |
選択的錯生成のための配位子の設計は、分離分析のほか、核燃料処理、希土類など希元素の冶金から、メタロチオネイン、イオンチャネルなどの生体内反応、水圏地球環境における生元素の役割など化学の広い分野の基礎となる課題である。従来は、ピアソンの酸・塩基概念、大環状化合物における空孔の大きさ、錯生成における歪みエネルギーなどが提案されたが、実際は試行錯誤で開発されてきた。そこで選択的錯生成に影響する因子を順次明らかにし、これらの因子に基づいて設計した配位子を用いて分離・分析化学への適用を進めた。以前これらの因子として配位原子間距離、配位子の構造的硬さを見出したが、さらに錯体内配位子間接触がイオンサイズ認識に大きく影響することを見出した。この第3因子を基礎にして配位子を設計し、分離・分析及び地球環境化学に適用した。ここでは希土類元素とAl^<3+>, Ga^<3+>, In^<3+>に適用した例を紹介する。希土類では主に配位原子間距離を短くしたアシルピラゾロン類を設計、合成し、分離効率を著しく改善した。ついで後者3元素のイオンサイズはAl^<3+><Ga^<3+><In^<3+>であり、その錯体の安定度はAl^<3+>>Ga^<3+>>In^<3+>の順となる。従ってアセチルアセトン(AA)ではAl^<3+>>In^<3+>の順で低pHから抽出されるが、フェニルAAでは第2因子によりInは不安定になり錯生成されなくなる。一方アシルピラゾロンの5-位に1-ナフチル基のようなより大きな置換基を導入するとイオンサイズの小さいAl^<3+>は第3因子が働き著しく不安定となり、In^<3+>≫Al^<3+>となる。しかしt-ブチル基を導入すると第1、第3因子が作用しGa^<3+>≫Al^<3+>, In^<3+>となる。その他大環状化合物にスルホン酸を導入すると、開環の配位子とは錯生成能が異なるため、マスキング剤として使用でき、分離機能を高めることなどに成功した。
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