研究概要 |
水溶液中でイオン会合反応により,染料イオンの吸収波長及び吸収強度が大きく変わる現象を発見し,詳細な基礎化学的研究と共に分析化学的な観点からの研究を進めた.この現象は,イオン会合反応により染料イオンの周りのミクロ環境が(親水性⇔疎水性)の変化をすることにより起こるもので,新しいタイプのソルバトクロミズムであることを確認した.本現象発現性の陰イオン性試薬を主体的に合成し,それらの基本的な化学的,光学的性質を調べた.得られた新しい知見の概要は次の3点である. 1.新規試薬の合成・開発 イオン会合反応により,光吸収が短波長にシフトするアゾベンゼンスルホン酸系試薬15種,長波長シフトするニトロフェニルアゾフェノール系試薬20種,ジフェニルアミン系試薬6種を合成した.更に強い光吸収を示すトリフェニルメタン系試薬7種を合成した.これらはいずれも新規合成試薬であり,分析化学的にも有用なイオン会合性試薬である. 2.イオン移動度測定によるストークス半径,イオンの疎水性尺度決定及び置換基の寄与の見積り キャピラリー電気泳動法により,第4級アンモニウムイオン共存下でのイオンの移動度変化を利用して,イオン会合定数を算出する新手法を開発した.求めたイオン会合定数から,イオンの疎水性尺度,置換基の寄与分の決定,イオン会合に及ぼす疎水性相互作用を見積ることができた,これらの新知見を,水相-有機相間におけるイオン会合体の分配平衡データと比較したところ,対象性の良い陽イオンにおいて大きな違いがあることが判明した. 3.ソルバトクロミズスを利用する水溶液内イオン会合の平衡論的研究 低濃度域での平衡論的研究を吸光光度法で初めて可能とした.又光度滴定のデータ解析から平衡定数を求める新手法を開発した.求めた平衡定数より,反応のΔG°,ΔH°,ΔS°を求め,ΔS°よりイオン会合における疎水性相互作用の寄与に関する知見を得た.以上の平衡論的知見を,陽イオン試薬に関する今後の研究データとの統一的解釈に資することにより,水溶液内の新しいイオン会合の概念構築が可能となる.
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