研究概要 |
(1)O型のチンパンジーのgenomicDNA9個体分を,米国の共同研究者から譲り受け,まずSSCP分析を行った。ホモ接合体と考えられる3頭について,ABO血液型遺伝子の部分塩基配列を決定した結果,3配列すべてがチンパンジーのA型対立遺伝子から派生していることが示された。そのひとつはA型対立遺伝子のひとつと同一の配列を持っており,もうひとつはそれと1塩基しか異なっていなかったので,糖転移酵素の機能を失ったのは,別の部分の配列における突然変異のためと思われる。一方,残るひとつの配列では9塩基の欠失が見られたので,この突然変異が酵素活性の失活に寄与した可能性が大きい。現在論文を作成中である。 (2)遺伝子の系統樹を復元する際,並行突然変異が生じていたり組換えが生じていたりすると,系統樹推定に誤りが生じやすい。したがって,分岐の程度が小さい塩基配列の進化を解析する際には,系統樹より一般的なグラフの形式である「ネットワーク」をまず構築することが必要である。このネットワーク法を用いて霊長類のABO血液型遺伝子の塩基配列データを分析した結果,B型対立遺伝子がヒト・ゴリラ・ヒヒの系統で独立に祖先型のA型対立遺伝子から生じたこと,ヒトのO-1型対立遺伝子は,A型対立遺伝子とO-2型対立遺伝子のあいだの遺伝子内組換えによって生じた可能性が高いこと,の2点が推測された。また,ABO血液型遺伝子とホモロジーのある他の遺伝子との比較も行ない,これらの遺伝子族がおそらく脊椎動物の出現以前にすでに存在していたと推定した。本研究は米国ラホヤ癌研究所の山本文一郎博士との共同研究であり,現在論文を作成中である。 (3)東京都赤十字血液センターの小笠原健一郎博士らとの共同研究でヒト(日本人健常者)のABO血液型遺伝子データのネットワーク分析を行ない,現在Human Geneticsに論文が印刷中である。
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