本研究においては、まず亜社会性ハダニの雄の攻撃性構造を、攻撃性の地域変異と冬の温度の関係および特定個体群における近交弱勢の生起の有無による繁殖構造の推定によって明らかにしようと試みた.その結果: 1.ススキスゴモリハダニ雄の攻撃性の変異が、雄の越冬する場所の冬の最低温度によって説明可能であることを、非積雪地帯および多雪地帯での比較から再検証した。これによって、従来の報告における結論をさらに確認することができた. 2.島根個体群について、近接2小個体群を交配した系統を作り、以後6血統を選んでF10まで母子間で近親交配した結果、この個体群には雄の繁殖に関するヘテロ-シスがあり、また近交弱勢が存在することが判明した。これは、従来単数-倍数性においては近交弱勢がほとんど存在しないという通説を覆すものであった。さらに、この結果から、ススキスコモリハダニの島根個体群では小集団内で劣性弱有害遺伝子の固定が生じるほどの近交系であることが判明した。今後近交弱勢の生起パターンによって集団の近交のレベルを推定する方法として利用できると考えられた。 一方、DNAを用いた血縁度測定の試みを行った結果: 3.キチナーゼによる処理を加えることで微小なハダニからDNAを効率よく抽出できることが判明した。 4.上記の方法によって、個体群全体における遺伝的変異および10世代の近親交配によって得られた近交系の間のDNA断片長をPCR法によって検討し、相互作用する個体間の遺伝的なホモロジーを個体群内変異と比較するために利用可能な多くの変異を検出した。今後遺伝解析が必要とされるが、おおむね血縁度の直接的測定が可能な段階に到達したと考えている。
|