研究概要 |
本研究は遊離メチオニンを過剰に蓄積するシロイヌナズナ変異株(mtol)を用いることにより,高等植物におけるアミノ酸生合成の制御機構を分子遺伝学的手法で解明することを目的としている. メチオニン生合成関連遺伝子の発現を調べた結果,この変異株ではシスタチオニンγーシンターゼ遺伝子のmRNAの蓄積が増加し,また,同酵素の活性も高まっていることが見いだされた.シスタチオニンγーシンターゼはアスパラギン酸属アミノ酸の生合成経路でメチオニンへの分岐点の酵素であり,メチオニン生合成の鍵酵素と考えられている.シスタチオニンγーシンターゼ遺伝子の発現制御を調べるため,シロイヌナズナをメチオニン存在下で栽培した.一般に外から与えたメチオニンは毒性を示し,植物は生長が阻害される.シロイヌナズナも同様で,播種後直ちにメチオニンを与えると枯死したため,播種後12日目より3日間メチオニン存在下で栽培することとした.その結果,野生型株ではメチオニン投与によりシスタチオニンγーシンターゼ-mRNAの蓄積が抑えられたが,この変異株では高いままであった.従って,野生型株では過剰のメチオニンによりシスタチオニンγーシンターゼ-mRNAの蓄積を抑える機構が存在するのに対して,mtol変異株ではこの抑制機構が欠損しているものと考えられる.分子マーカーを用いてmtol変異をマップした結果,第3染色体の最上部に位置することが明らかになった.一方,シスタチオニンγーシンターゼ遺伝子について,RIラインを用いてマップした結果,こちらも第3染色体の最上部にマップされた.これらの結果を総合すると,シスタチオニンγーシンターゼ遺伝子の転写もしくはmRNAの安定性を規定する領域に生じた変異により,メチオニンによるフィードバック制御がかからなくなった為に遊離メチオニンの過剰蓄積が生じたものと考えられる.
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