本研究では、ヒャクニチソウ葉肉細胞から管状要素への分化に伴う多分化能獲得過程と分化能限定化過程を解析するために様々な分子マーカーを単離した。これらの遺伝子の発現の解析から、維管束分化に関連して、次のようなモデルを提唱したい。植物体内では、頂端分裂組織から前形成層がつくられ、その内の一部が未成熟な木部細胞となり、さらに、その一部の細胞が管状要素へと分化することで、一次木部の管状要素が形成されると考えられる。一方、in vitroにおいては、まず、葉肉細胞は、傷害により活性化細胞に変化する。この細胞は、植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンによりさらに脱分化状態へと移行し、分裂組織のような多分化能をもつ細胞に変わる。この過程が分化の前期に起こる。そして、分化中期において、多分化能をもつ細胞が、前形成層様細胞、未成熟な木部様細胞、さらに管状要素の前駆細胞へと分化してゆく。この過程で、脱分化することによって獲得した多分化能が、木部・師部のいずれにも分化できる能力→木部のいずれの細胞にも分化できる能力→管状要素(通管)のみに分化する能力へと次第に制限される。そして、管状要素前駆細胞から管状要素が分化する過程で、分化の最終決定が起こる。この最後の分化の決定には、内生のブラシノステロイドが関与しており、分化の決定後、管状要素分化に特異的な事象、たとえば二次細胞壁合成、自己分解等に関連する遺伝子の特異的な発現が起きることになる。最後の分化決定後の遺伝子発現は、細胞死に関する遺伝子と二次細胞壁形跡に関与すると考えられるペルオキシダーゼ遺伝子では、ほぼ同じパターンで発現しており、遺伝子の協調した発現制御が存在することが示唆された。
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