タバコのF1雑種植物(N.langsdorffii x N.glauca)に生ずる遺伝的腫瘍は、腫瘍状態と腫瘍細胞から再分化した正常形態を示す状態を、傷と光条件という単純な処理で、短時間に相互変換できる。この実験系を用いて、腫瘍状態の細胞でのみ発現している_CDNAのクローニングを行い17の遺伝的腫瘍特異的クローンを得た。これらのクローンのうち、既知遺伝子と相同な8クローンは主としてPR-遺伝子関連のもので、未知の8クローンと共に機能、発現様式等を解析中である。本研究では、腫瘍形成と傷に対する防御機構との関係に的を絞っているが、平成7年度にはジャスモン酸メチル(JA)、サリチル酸(SA)、ABA、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンの上記の17クローンの遺伝子発現に対する影響を調べた。その結果、発現様式は、 1)植物ホルモンおよびストレス関連物質のすべての処理で転写が誘導されるもの 2)すべての植物ホルモン処理、ABA、およびJA処理によって転写が促進されるもの 3)すべての植物ホルモン処理およびABA処理によって転写が促進されるもの 4)すべての植物ホルモン処理で転写の誘導、促進が認められるもの 5)すべての処理で転写の誘導、促進が観察されなかったもの の5つに分類できたが、JA、SA、ABAで誘導されて植物ホルモンで誘導されないというものは一つも見出されず、腫瘍誘導初期過程では植物ホルモンがより包括的に関与していることが示唆された。
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