遺伝子腫瘍を生ずるタバコのF1雑種植物(N.langsdorffii x N.glauca)は傷によっても容易に芽原基様構造を含んだ奇形腫生ずる。今までに腫瘍組織で特異的に発現している17のcDNAのクローンを得ているが、そのうち既知遺伝子と相同な8クローンは主としてPR-遺伝子関連のもので、未知の8クローンと共に機能、発現様式等を解析中である。平成7年度はジャスモン酸メチル(JA)、サリチル酸(SA)、ABA、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンの上記17クローンの遺伝子発現に対する影響を調べた。その結果、これらの物質に対する遺伝子の転写反応は5つに分類できたが、本年度はその中でどの物質によっても転写が誘導されず、遺伝的腫瘍形成過程後期に発現するTID771クローンについて翻訳レベルで解析した。TID771クローンのペプチド抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なったところ、翻訳産物の蓄積は傷処理後7日目に初めて検出され、転写産物が5日目には検出されず11日目に検出されるという結果と矛盾しない結果が得られた。また、免疫組織化学的観察から、TID771の翻訳産物は組織の表層に局在することが確認された。一方、培養中に芽原基様構造を分化しなくなった遺伝的腫瘍株、ホルモン投与によって分化を抑えた組織ではTID771の転写産物も、翻訳産物も検出されないことから、TID771は遺伝的腫瘍の芽原基様構造の分化と関連して機能しているものと推論される。
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