タバコのF1雑種植物(N.langsdorffii x N.glauca)の切断組織を培養すると切断面から腫瘍組織が生じ、植物ホルモンのない培地で増殖を続けるのに対し、それぞれの親植物の切片は褐変して増殖を停止する。増殖を続けるには培地にホルモンを添加することが必要である。本研究では傷による腫瘍誘導過程には、傷に対する植物の防御機構を抑制する機構があり、その機構に植物ホルモンが関わっているという作業仮説の検証を試みた。 まず、遺伝的腫瘍関連遺伝子として得られていたPR-遺伝子関連遺伝子8クローンと既知の遺伝子とホモロジーを示さない8クローンの計17のクローンについて、傷および植物ホルモンとの関係を解析した。その結果、これらのクローンの応答は傷害による遺伝子発現の誘導に介在するものと考えられているジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、アブシシン酸(ABA)に対してより、植物ホルモンのオーキシンやサイトカイニンに対してより包括的に応答するというものであった。また、遺伝的腫瘍形成に関連して発現するNgrol遺伝子群もオーキシンによって発現が著しく増大した。事実、傷処理後5日以内に植物ホルモンのオーキシン含量の著しい増加が見られ、本研究でも傷処理後24時間以内にオーキシン合成活性が著しく増加することを見いだしている。これらの結果も、傷によって誘導される遺伝的腫瘍形成の過程に植物ホルモンが介在するという作業仮説を支持する。 一方、傷による腫瘍誘導過程で発現が抑制される三つのcDNAクローンを得たが、既知の遺伝子とは相同性を示さない。今後、これらの遺伝子の発現と植物ホルモンとの関連を解析する予定である。
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