本研究はタバコ培養細胞BY-2を用いて行った、植物細胞の形態形成に関するものである。植物体の形態形成の基本は個々の細胞の伸張成長にあるが、植物細胞の伸張方向は細胞壁のセルロース微繊維によって規定され、そのセルロース微繊維の配向は植物細胞に特有な構造である表層微小管により制御される。表層微小管はM期に消失しG_1期初期に再形成される。従ってこのM期とG_1期の境界期(M/G_1境界期)は植物細胞の形態を決定する重要な時期であるが、私はこの時期の微小管の経時的な観察から表層微小管が細胞核表層に由来するという新知見を得た後、さらに詳細な観察と統計的な分類からこの再形成の過程には5つのステップが存在することを見出し、表層微小管の再形成機構および再形成部位を明らかにした(Hasezawa et al.1997)。一方、このような微小管の形成に関して微小管形成中心(MTOC)として機能するタンパク質の探索を行い、動物の中心体構成タンパク質に類似の49kDタンパク質を見出した。この49kDタンパク質はM/G_1境界期の微小管形成部位である細胞核表層に局在し、49kD画分は精製チューブリンの添加により星状体様の構造を形成するなど仮想的な植物のMTOCに相応しい挙動を示したので、cDNAの全シーケンスを決定したところトマトなどのポリペプチド鎖伸張因子EF-1αと高い相同性を示した(Kumagai et al.1995)。この研究は最近ようやく周知の事実になりつつある「細胞骨格系とEF-1αの相互作用」に関する植物細胞での研究の嚆矢となるものである。これら一連の知見により植物細胞の形態形成を担う表層微小管の起源と形成について、それまでに出されていた仮説では難しかった一貫した説明が可能になった。
|