平成8年度は冬眠性哺乳動物(コウモリ)を用い、年生殖周期における視床下部ゴナドトロピン(Gn)放出ホルモン(RH)産生神経細胞の分泌活性を調べた。そして、繁殖期の夏季に分泌能が最も高まる事、さらに単一細胞レベルでの解析により、下垂体Gn細胞の分泌活性やGnRHに対する反応性も夏季に最大になる事を明らかにした。しかし、個体レベルでの生殖機能を知る上で、Gnの生殖腺における標的細胞受容体の解析をする必要があった。そこで、平成9年度の前半は下垂体Gn産生細胞の分泌活性を定量形態学的に細胞レベルで解析すると共に精単Gn受容体の解析を行った。その結果、生殖機能の変化は標的細胞のGn受容体の親和性の変化によるものではなく、その数の増減に依存して変化する事を明らかにした。しかし、環境要因との関連性や内的因子による変化の機序等について解析するのが困難であった為、今年度からハムスターを用い環境要因と細胞レベルでのGn分泌能について調べた。まず、下垂体Gn分泌活性を制御する視床下部GnRH産生神経細胞の分泌活性を細胞レベルで調べた。短日処理は細胞からのGnRH分泌能を低下させ、寒冷環境下の短日処理はさらに分泌能を低下させた。この結果は日長が短く、気温の低い冬に生殖腺が退化することをよく説明している。さらにRT-PCRによってGnRH遺伝子発現量を検討した所、全群間で明かな差は認められなかった。このことは合成能の変化を伴わない事を示唆している。一方、短日によって、松果体からのメラトニンがGn産生細胞からの分泌を制御するばかりでなく、腺性下垂体隆起葉の甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生細胞に対しても大きな影響を及ぼし、またその効果が寒冷暴露(恐らくTRHによる分泌亢進)によって拮抗作用を示す事を明らかにした。現在、組織学的に個々の細胞での解析と単離した細胞を用いた単一細胞レベルでの解析を進めている。
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