研究概要 |
正常動物における,性周期に伴う細胞増殖と細胞死との関係を,性周期が環境に左右されることのないラットを用いて調べた。細胞増殖の解析のために,コルヒチンを投与して5時間後の子宮及び膣の切片を作製して分裂中期にある細胞数を数えた。また,細胞死の解析には,組織中のアポトーシス細胞を3′-DNAニックエンドラベリング法を用いて検出し,また電子顕微鏡による観察も行った。さらにDNAの断片化を観察した。その結果,子宮では発情期及び発情後期においてDNAの断片化が見られた。発情期では,子宮腺上皮細胞の細胞分裂率が低下し,アポトーシス細胞の割合が増加しており,また発情後期では,上皮細胞の細胞分裂率が低下し,アポトーシス細胞が増加していた。膣では発情前期と発情後期でそれぞれ細胞分裂率の低下,DNAの断片化が観察され,アポトーシス細胞が増加した。また,電子顕微鏡による観察結果も3′-DNAニックエンドラベリング法での結果と一致した。以上より,性周期に伴うラット子宮・膣の退縮はアポトーシスによるものであり,上皮細胞における細胞死と細胞増殖には負の相関がある事を明らかにした。 一方,妊娠依存性乳腺腫瘍(PDMT)は,妊娠期問中に発生・増殖し,分娩とともに退行する。また,DDD系マウスでは,自然発生乳癌から安定した可移植性妊娠依存性乳癌株(TPDMT)が樹立されている。この2種類の乳腺腫瘍の退行機構を,DNAの断片化および3′-DNAニックエンドラベリング法を用いて調べた結果,アポトーシス細胞は,PDMTでは腫瘍体積がピークとなる分娩日に,また,TPDMT-4では急速に退縮する分娩翌日に増加した。この時のアポトーシス関連因子のmRNAの発現を,準定量化RT-PCR法を用いて調べた結果,PDMT,TPDMT-4ともに分娩日にFasの発現が増加していたことから,Fas系がPDMT,TPDMTの退縮に関与している可能性が考えられる。
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