完全変態昆虫の幼虫体液中に存在する貯蔵タンパク質は幼虫摂食期の脂肪体で大量に合成され体液中に分泌されるが、摂食停止期から蛹期にかけて脂肪体細胞に選択的に再吸収され、タンパク質顆粒として貯蔵される。本研究では昆虫脂肪体におけるタンパク質の選択的取り込み機構を解明するため、カイコ貯蔵タンパク質SP1を対象としてSP1結合タンパク質の単離・精製、細胞内局在性の解析、ならびにcDNAクローニング、およびカイコ培養細胞への遺伝子導入についての基礎的実験手法の開発を行った。 1.SP1結合タンパク質は脂肪体の細胞質に多量に存在することが判明したため、カイコ5齢9日目の雌幼虫脂肪体ホモゲネートから同タンパク質を単離・精製した。 2.精製SP1結合タンパク質に対するポリクローン抗体を作成し、これを用いて免疫電子顕微鏡法によりこのタンパク質の細胞内局在を明らかにした。 3.カイコ脂肪体cDNA発現ライブラリーを抗SP1抗体をブローブとしてスクリーニングし、0.6〜2.6kbのインサートDNAを有する数株のSPI結合タンパク質cDNAクローンが単離した。更に2.6kbクローンをブローブとして、ライブラリーを再度スクリーニングすることにより、SP1結合タンパク質mRNA塩基配列のほぼ全長をクローニングした。mRNAの5'端は5'-RACE法によりクローニングした。 4.SP1結合タンパク質mRNAの長さは約3.5kbで、その中に1025アミノ酸残基の翻訳単位が存在した。5'非翻訳領域は200塩基長であり、3'非翻訳領域に典型的なポリアデニル化シグナルが存在した。 5.SP1結合タンパク質の推定一次構造のアミノ末端と731〜748アミノ酸残基領域には膜貫通シグナルと考えられる構造が検出された。 6.エレクトロポレーション法によるカイコ胚由来の培養細胞Bm5へのDNA導入系を確立した。
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