本研究は、1920年以降誰も成功していない、アカガエル科の系統分類を、遺伝子塩基対配列の比較という、新しい手法を取り入れることによって確立しようとする試みの一環として行われた。 まず、日本産アカガエルの全10タクサ(エゾアカ、チョウセンヤマアカ、ヤマアカ、ニホンアカ、タゴ、ヤクシマタゴ、オキタゴ、ナガレタゴ、ツシマアカ、リュウキュウアカ)の系統関係を、ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子456塩基対の比較から推定し、独特の繁殖習性をもつタゴとナガレタゴがまず分化し、次いで孤島に隔離されているツシマアカ、リュウキュウアカが分化したこと、タゴの亜種間と、リュウキュウアカの2個体群間でかなりの遺伝的分化があること、24本の染色体をもつ3種は単系統群を形成し、26本の群から派生したことを示した。 次に、これまで、日本とその近隣域産の染色体数24本のアカガエル類が、その同一種とされた中国陜西省秦伶山脈産のチュウゴクアカを用い、近縁種間の遺伝的関係を調べたところ、ヤマアカ、エゾアカ、チョウセンヤマアカはチュウゴクアカと異なり、それぞれを独立種とすべきことが確認された。 他の中国産をはじめ、台湾産、ロシア産のヨーロッパアカガエル群のカエル類のほとんどの種についても、すでに塩基配列の決定を終え、目下系統関係の解析中である。さらに、東南アジア産のアカガエル科の代表属についても、塩基配列決定の作業を終え、一部は系統関係の解析をも終えることができた。今後、こうした資料をさらに蓄積することによって、アカガエル科全体についての系統関係を解析し、そうして得られた系統関係の妥当性について、形態、生態などの資料と比較検討し、問題点を明らかにすることができよう。
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