研究概要 |
温度差によって引き起こされる磁束運動の結果生じる熱磁気効果を測定して,電流駆動の場合と比較することによって,高温超伝導体の磁束状態を調べることが本研究の目的である.本年は,大容量の超高温炉を購入して,大型YBa_2Cu_3O_<7-δ>単結晶の作製を試みると同時に,以下の研究を行なった. c軸方向に厚い試料が得られるQuench & melt growth processで作製されたYBa_2Cu_3O_<7-δ>を用いて、磁場がc軸に平行な場合とab面に平行な場合についてネルンスト電圧を測定し、結晶の層状構造が磁束運動に及ぼす影響を調べた。電気抵抗の測定を行い磁束一本当たりの輸送エネルギーを見積もった。YBa_2Cu_3O_<7-δ>に比べて2次元性が強い(有効質量の異方性で見て約20倍)Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+δ>の単結晶試料においてネルンスト電圧を測定し、YBa_2Cu_3O_<7-δ>と比較し、異方性の強さが磁束の熱拡散に及ぼす影響について調べた。以上の研究から次のことが明らかとなった。c軸方向に運動する磁束に対して層状構造は強いピン止め中心として働いている。YBa_2Cu_3O_<7-δ>について見積もられた輸送エネルギーは、従来の超伝導理論で期待される振る舞いを示さない。これらの不一致は、酸化物超伝導体に顕著な超伝導揺らぎによるものと考えられる。Bi_2Sr_2CaCu_2O_<8+δ>はYBa_2Cu_3O_<7-δ>と同程度の大きさのネルンスト電圧を示す。これら二つの超伝導体は共に、c軸方向に単位格子当たり2枚のCuO_2層を含んでおり、磁場がc軸に平行な場合のネルンスト電圧は、異方性の大きさよりも、むしろ、CuO_2層によって支配されていると考えられる。しかしながら、ネルンスト電圧の温度、磁場依存性は両者の間で必ずしも一致していない。今後、電気抵抗の測定を待って輸送エントロピーを算出し、異方性の影響について考察する予定である。
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