研究概要 |
高温超伝導体の磁束状態は,従来の第2種超伝導体と極めて異なった性質を示すことが知られている.本研究は,磁束状態の静的な性質に加えて,温度差によって駆動される磁束の運動の結果生じる熱磁気効果を利用して磁束の運動や磁束の持つエネルギーを測定して,高温超伝導体の磁束状態の特徴を明らかにすることを目的としている. 昨年度,良質な非双晶YBa_2Cu_3O_7単結晶において特徴的な第2ピーク効果を見出し,これを磁束系の規則-不規則変化によるものであることを主張した.本年度,この主張の可否を明らかにするため,日本原子力研究所・岡安らとの共同研究によって電子線照射を行い,この第2ピークが結晶母体の欠陥によってどの様に影響されるかを調べた.その結果は,結晶母体の不規則性が増すにつれ,規則-不規則変化を起こす磁場の値は減少し,我々の主張するモデルと矛盾しないことが確認された.また,磁束格子の融解転移線近傍に於いて電流-電圧特性を測定し,磁束の運動が,プラスチックフローからエラスティクフローに代わること,電流による融解相転移が起こると考えられることを示した. YBCO及びBSCCOにくわえて,本年度は,山梨大学児嶋研究室から提供されたLa_<1.87>Sr_<0.13>CuO_4のネルンスト効果の異方性を測定した.その結果,異方的な層状構造のもとでの磁束運動は,電子状態の異方性を反映しており,磁束の輸送エントロピーの異方性は,コヒーレンス長,磁束侵入長の異方性によって説明されることを明らかにした.一方,磁束の輸送エントロピーは,ネルンスト効果とエッチングスハウゼン効果の2種類の熱磁気効果から求められるが,これら2種類の測定の間で,その値に不一致が見られた.その原因は未だ不明である.
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