研究概要 |
核酸の構成要素であるヌクレオチド結晶が、結晶周りの水蒸気圧に依存し1次相転移を起こす現象を見いだしX線回析法等・ラマン分光法等を用い、解析を進めている。平成8年度は、シチジン5'-モノフォスフェイト二ナトリウム(Na_2CMP)結晶の相転移を中心に解析を進めた。Na_2CMP結晶では、水蒸気圧に依存性し、A(8〜9水和物),B(6.5水和物),C(〜3水和物),D(〜1水和物)の4状態間で相転移が進行する。結晶内には、CMP分子の層状構造が形成されており、分子層間にNa^+と結晶水からなる領域が存在する。平成8年度は、新たに6.5水和物の結晶構造解析に成功した。既に構造決定を終えている9水和物の結晶構造と比較すると、分子層間距離の減少とともに、分子層に数オングストロームのずれの変位が生ずることが明らかになった。また、結晶水およびNa^+の位置には顕著な変位が認められ、水素結合網、Na^+まわりの配位の再構成がみららる。分子層の変位は速やかに起こるが、初期構造は乱れが大きく(B')、ゆっくりと安定構造(B)へ移行する。これと相関し、BからB'からでは異なる相(C1,C2)を経てDへ移行することが明らかになった。 また、相移転に伴うエネルギー変化に関し知見を得ることを目的とし、シチジン5'ーリン酸、グアノシンの系について、示差熱分析、熱重量測定を行なった。ヌクレオチド結晶からの結晶水の離脱は数ステップで進行するが、相転移は、結晶水1モルあたりのエンタルピー変化量が異なる2つのタイプに大別されることが明らかになった。今後、結晶構造に基づき、結晶水の水素結合状態とエンタルピー変化の相関についての検討を行う予定である。
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