核酸の構成要素であるヌクレオチド結晶が、結晶周りの水蒸気圧に依存し一次相転移を起こす現象を見いだしX線回折法、ラマン分光法等を用い、解析を進めている。最終年度にあたる平成9年度においては 1.X線回折写真(プリセション写真、ワイセンベルグ写真)測定を行ない、相転移前後の構造における構造揺らぎについての検討を行った。高水和状態の結晶(Na_2CMP.9H_2O)において、プリセション写真に散漫散乱が観測され、分子量に位置の乱れがあることが示された。分子層間の結晶水領域の結晶水数に、空間的または時間的な揺らぎがあり、その結果、分子層の間隔に乱れが生じているとみられる。 2.結晶は同形であるが分子構造に由来し層内の分子間相互作用に差異のあるイノシン(C_<10>H_<12>N_4O_5)とグアノシン(C_<10>H_<13>N_5O_5)二水和物の構造転移の比較を行った。イノシンはグアノシンの塩基部分の2位のNH_2基を欠いた構造をしている。従って、イノシンでは、グアノシン結晶においてNH_2基が担っていたヌクレオシド分子間および結晶水との相互作用が欠落している。グアノシンの相転移が二水和物-無水物間で可逆的であるのに対し、イノシンの構造転移は不可逆で、無水状態から第3の構造に転移するという結果が得られた。このことは、水和水が抜けた状態でも層状構造を保持し得るだけの分子間相互作用が可逆的な相転移に必須であることを示している。 3.Na_2CMP.9H_2Oの偏光ラマンスペクトル測定を行い、Sモードの属する規約表現を確定した。関連物質の格子振動に関する知見と対照し、基準振動形の解析を進めている。
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