核酸の構成要素であるヌクレオチド結晶が、結晶周りの水蒸気圧に依存し一次相転移を起こす現象を見いだしX線回折法、ラマン分光法等を用いた解析を進め、以下の結果を得た。 1.結晶内には、分子の層状構造が形成され、層間に結晶水と対イオンからなる領域が存在する。結晶水数の変化は、層間距離の変化、水素結合の切り替え、対イオンへの配位の再構成を引き起こす。また、マルテンサイト様の転移が起こる系(シチジン5′ーリン酸ニナトリウム;Na_2CMP)が存在する。 2.相転移前後の構造における構造揺らぎについての検討を行なった。高水和状態の結晶(Na_2CMP.9H_2O)において、プリセション写真に散漫散乱が観測され、分子層に位置の乱れがあることが示された。分子層間の結晶水領域の結晶水数に、空間的または時間的な揺らぎがあり、その結果、分子層の間隔に乱れが生じているとみられる。 3.結晶は同形であるが分子構造に由来し層内の分子間相互作用に差異のあるイノシン(C_<10>H_<12>N_4O_5)とグアノシン(C_<10>H_<13>N_5O_5)の構造転移の比較を行った。グアノシンの相転移が可逆的であるのに対し、イノシンの構造転移は不可逆で、無水状態から第3の構造に転移する。水和水が抜けた状態でも層状構造を保持し得るだけの分子間相互作用が可逆的な相転移に必須であることが示された。 4.フォノン領域(-200cm-1〜200cm-1)のラマンスペクトル測定を行い、構造転移前後を通じ、核酸の集団振動モードに対応するSモードは保存されていることを確認した。また、偏光ラマンスペクトル測定を行い、Sモードの属する規約表現を確定した。 5.熱分析(示差熱分析、熱重量測定)を行ない、結晶水1モルあたりに換算したエンタルピー変化量が、水の気化熱とほぼ同程度(〜40kJ/molH_2O)と、その半分程度(15〜20kJ/molH_2O)の値となる結晶水の離脱過程が存在することを明らかにした。
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