研究概要 |
芳香族ラジカルアニオン種,特にベンゾフェノン類の気相における熱力学的安定性を電子移動反応の平衡定数のTF-ICRによる測定に基づいて決定した。また、ニトロベンゼン,ベンズアルデヒド,アセトフェノン,及びメチルベンゾエ-ト系についても詳細な解析を行うために必要な置換基を追加した。これらの系の置換基効果を詳細に検討した結果,湯川-都野式による取り扱いが可能で,置換基定数も基本的には液相の値が使用できることが明らかになった。さらに相関結果の総合的な解析は母体ラジカルアニオン種(ベンゼン環置換基=H)の安定性の増加とともに共鳴要求が低下することを示した。この傾向は先に検討したベンジル位炭素陽イオンの安定性に及ぼす置換基効果の挙動に完全に一致し,共鳴要求度の概念の一般性が確立した。また,これらの系についてラジカルアニオンのエネルギーを種々のbasis setに基づくab initio MOにより計算した。ラジカルアニオンの相対安定性の計算値と実験値の間には良い直線相関が認められ,ラジカルアニオンの理論計算に対して危惧されていた計算の信頼性が系統的な実験値との比較から初めて確認された。さらに,共鳴要求度と固定置換基のパラ位のπ電子密度との間は相関性が認められ,共鳴要求度の本質は陰電荷と置換基間のパイ電子相互作用であることが理論的にも支持された。 気相酸性度における置換基効果の研究に関しては,高い酸性度を有する炭素酸として取り上げるα,α-ビストリフルオロメチルトルエン誘導体の合成がほぼ終了したので,現在測定が進行中であり,当初予想した結果が得られつつある。
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