研究概要 |
(1)陰イオン生成反応系 芳香族ラジカルアニオン種,ニトロベンゼン,ベンズアルデヒド,アセトフェノン,メチルベンゾエ-ト及びベンゾフェノン系の気相における熱力学的安定性を電子移動平衡に基づいて決定し、各系の置換基効果を詳細に検討した結果,湯川-都野式による取り扱いが可能で,置換基定数も基本的には液相の値が使用できることが明らかになった。さらに相関から得られた共鳴要求度は母体ラジカルアニオン種(ベンゼン環置換基=H)の安定性の増加とともに低下し、ベンジル位炭素陽イオンの安定性に及ぼす置換基効果の挙動に完全に一致した。 (2)陽イオン生成反応 β-置換基としてH,Me,t-Bu,CF_3基を有するフェニルアセチレンの気相塩基性度をプロトン移動平衡に基づいて測定し、置換基効果を解析した。ρ値は-10で一定値となり,共鳴要求度は母体カチオンの安定性の増大の順にCF_3=1.39からt-Bu=0.98まで減少した。この結果はベンジルカチオン系で観測された挙動に完全に一致し,両系には共鳴要求度と母体カチオン間の単一直線関係が存在することが明らかになった。この事実は、共鳴要求度がカチオンの分子構造に依存したパラメータで、特にイオンの安定性を反映したパラメータであることを支持する。 (3)α-置換ベンジルカチオンおよびβ-置換基-α-フェニルビニルカチオンの最適化構造を非経験的分子軌道法計算により求めた。MP2//HF/6-31G^*レベルで得た各カチオンの構造パラメータと共鳴要求度との間に優れた相関関係が見いだされ、共鳴要求度が電荷中心とベンゼン環間の共鳴相互作用を表すパラメータであることが理論的に実証された。また,ラジカルアニオン系についても種々のbasis setに基づくab initio MO計算を行い,共鳴要求度と固定置換基のパラ位のπ電子密度との間に相関性を見いだした。これらの結果から陰イオン系においても共鳴要求度の物理的意味が確立した。
|