世界の北限にあたる亜熱帯・暖温帯常緑広葉樹林の構造と構成樹種の特性を鹿児島県屋久島(北緯30度)、和歌山県大森山(33度)、千葉県清澄山(35度)などの地域を選んで調査した。群落の階層構造、分枝パターン、シュートフェノロジー、芽の構造、さらに葉の動態について調べた。また、樹型についても予備的調査を行った。森林は大きく3層(林冠、亜高木、低木)に区分され、それぞれの構成種は異なる分類群から構成される。屋久島の花崗岩地域では尾根と斜面で森林の階層構造が異なり、尾根では高木性、低木性の両樹種が林冠で共存し、斜面では階層が分かれていた。これは高木種は環境傾度に樹高変化で反応するが、低木種は影響を受けないことによって起こることが明らかになった。林の構造を担う樹木は葉のサイズ、寿命、芽の構造、分枝様式なが各構造レベルで特徴的であることが明らかとなった。すなわち林冠層はブナ科、クスノキ科が主体となり、構成種は亜中形葉、葉の寿命は短く、芽は芽鱗に包まれたスケール芽、分枝は仮軸、先発枝という属性が共通する。林の下層の亜高木層、低木層はヤブコウジ科、ハイノキ科、ツバキ科、シキミ科など多様な分類群で構成され、小形葉、葉の寿命は長く、芽は高出葉に包まれたヒプソフィル芽、分枝は単軸、同時枝である。林床の草本層に出現するわい性低木はヤブコウジ科、アカネ科などを特徴とし、裸芽で成長は大きいがバジトニックな樹型をとって大きくならないもの、主幹ははっきりするが、早くから伸長成長が鈍るものなど特徴はあまりはっきりせず、なかには連続的な伸長をするものもあった。このように樹木の系統群、成長特性、芽から葉、枝、樹型といった属性は森林の構造と深く結びついており、これらの属性に基づいて東アジアの森林構造の統一的理解を目指す糸口が得られた。
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