包晶反応を用いた新しい結晶育成法の開発

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07455003
• 研究種目: 一般研究(B)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 武居 文彦 大阪大学, 理学部, 教授 (60005981)
• 研究分担者: 長谷川 正 東京大学, 物性研究所, 助手 (20218457)
• キーワード: 結晶成長 / 酸化物結晶 / 分解溶融型化合物 / 包晶反応 / 固液混合状態

研究概要

本年度は、1)ルツボ内での自己フラックス徐冷による方法と、2)改良型トップ・シ-ド法の検討を行った。3)その他、CuFeO_2、La_2NiO_<4+d>につき溶媒移動法で結晶を育成し、構造と物性を調べた。
1)今回提案の包晶反応を利用したルツボ内徐冷法により、mmサイズの高温超伝導体Tl_2Ba_2Ca_2Cu_3O_<10>の単結晶育成に成功した。この結晶は120K近傍に鋭い超電導転移点を持ち、X線回折パターンも非常にシャープであることから、結晶完全性の高いものであると判断された。この結晶を用いて、120K付近の精密結晶構造解析を行い、転移点近傍での顕著な格子伸縮を見いだした。同様の方法により、SrCuO_2結晶の育成にも成功し、添加された非磁性不純物と低次元磁性との関係を調べた。
2)提案している包晶反応を利用した改良トップ・シ-ド結晶育成法を行うため、改良型引き上げ電気炉を設計・試作した。また、それによるMgSiO_3(enstatite)結晶の育成を試験的に行った。すなわち通常のフラックス法により種子結晶を育成し、それを用いて成長容易軸(c軸)方向に引き上げたところ、数mmの結晶が得られている。今後は条件を改善して、さらに結晶の大形化を行う。
3)浮遊帯域溶融法に溶媒移動法を組み合わせ、CuFeO_2、LaNiO_<4+δ>結晶を育成し、構造と物性を調べた。前者は2次元磁性体として、20K以下でフラストレーション状態になる。育成時に導入された酸素不定比性により価数揺動が生じ、それに伴う転移点の明瞭な移動が見られた。またLa_2NiO_<4+δ>については、雰囲気制御によって過剰酸素量δの異なる各種単結晶を育成し、それらについて精密結晶構造解析を行った。その結果、過剰酸素は格子間に存在するものと判断された。

研究成果

• [文献書誌] Y.Matsushita: "Crystal growth of Tl_2Ba_2Ca_2Cu_3O_<10> Superconductors" Japanese Journal of Applied Physics. 34. L1263-L1266 (1995)
• [文献書誌] T.R.Zhao: "Crystal growth of CuFeO_2 by the Flouting-Zone Method" Journal of Crystal growth. 148. 189-192 (1995)
• [文献書誌] Y.Matsushita: "Growth and Structure Refinement of Orthorhombic SrCuO_2 crystals" Journal of Solid State Chemistry. 114. 289-293 (1995)
• [文献書誌] W.J.Jang: "Growth and Structure of La_2NiO_4+δ(0.19【greater than or equal】δ>0.12) Single Crystals" Journal of Crystal Growth. 152. 158-168 (1995)
• [文献書誌] P.C.Pan: "Growth and Photoluminescence of Cr^<3+>-doped Ca_3Ga_2Ge_3O_<12> Single Crystals" Japanese Journal of Applied Physics. 34. 515-516 (1995)
• [文献書誌] K.Imai: "Superstructure Analyses on Singre Crystals Li_<o.8> VO_2" Journal of Solid State Chemistry. 114. 184-189 (1995)
• [文献書誌] 武居文彦(共著): "結晶成長ハンドブック" 共立出版社, 1152 (1995)
• [文献書誌] 松下能孝(共著): "Advances in Superconductivity VII" Springer Verlag(Berlin), 1328 (1995)