研究概要 |
1.微小な強磁性MnAs結晶を析出させた不均一系p型(In,Mn)As薄膜中に含まれるMnAs微結晶の大きさと形状、および強磁性の特性を、X線分光、電子線顕微鏡、および磁化測定により、系統的に調べた。特にX線分光測定は、ニューヨーク州立大・Kao教授のグループと共に効率的にすすめることができたため、Mnの局所構造に関する知見を深めることができた。その結果、MnAs結晶の形成に関与しない孤立Mnは、4つのAs原子に囲まれていることが明らかとなった。これまでは、6つのAs原子に囲まれていると考えられていた。 2.試料の磁気抵抗および異常ホール効果などの電気伝導特性を調べる測定システムの構築を終了し、試料のキャリヤ輸送特性について調べることができるようになった。このシステムを用いた実験により、MnAs微結晶と(In,Mn)As中の正孔との間にスピン交換相互作用が存在し、半導体のキャリヤ輸送特性が変調されることを定性的に解明することができた。現時点で、学術上極めて興味深い問題点として、 (1)異常ホール効果の係数の符号(+、-)が、測定温度による反転、 (2)異常ホール効果の係数の符号(+、-)のキャリヤ濃度依存性、 (3)キャリヤ誘起強磁性のキュリー点とキャリヤ濃度の相関、 の三点が挙げられ、これらを今後重点的に調べることになる。 3.強磁性体・半導体より成る二層薄膜型量子井戸を用いた新しい(第二世代の)融合系の作製と物性について理論的な検討を行った。その結果、半導体にはワイドバンドギャップ材料を、強磁性体Feおよびその化合物を用いて材料設計を行うのが最もインパクトの大きな研究活動につながるとの見解に達した。そこで、強磁性Fe/ZnCdSe系多層膜ないし強磁性Fe/GaN系多層膜を分子線エピタキシ-により作製する方針を固めることができた。
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