高純度グラファイト棒を低圧の雰囲気ガス中で直流アーク放電によって蒸発させたときの、陰極付着堆積物の内部にカーボンナノチューブが生成されている。そのカーボンナノチューブを10^<-4>Torr程度あるいはそれ以下の低真空中でタングステンヒーターを熱源として熱処理すると、わずか10分の熱処理でもナノチューブの太さが2倍以上になることが明らかになった。そのナノチューブを本研究で購入したエネルギー分散型のX線分析装置を取りつけたSEMで観察し、分析した結果、C以外にWとOが存在することが解った。これは、真空度が低いためにタングステンが酸化されて酸化タングステンになり、それが蒸気圧が高いために容易に蒸発してナノチューブの表面に付着したものと思われる。この結果は、Fullerene.&Tech.3(1995)pp.359-367およびJ.Cryst.Growth(in printing)に発表した。 一方、C_<60>に代表されるいわゆるフラーレンとカーボンナノチューブとではその成長機構に本質的な違いがあるのではないかと思われるいくつかの実験事実が見いだされている。両者の生成される場所が明らかに異なるし、雰囲気ガスの種類にしてもフラーレンは生成されないとされているH_2を含む雰囲気中の方がナノチューブはむしろよく生成されることが解ってきた。また、我々自身の結果ではないが発光スペクトルから特定された蒸発時の分子種はナノチューブが成長する陰極近傍ではC^+であるのに対し、フラーレンの場合はC_2が主であることが知られている。我々の実験においても発光スペクトルを調べて、各場所における分子種の特定を行い、ナノチューブの成長機構を明らかにしたいと考えている。
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