本年度は計画2年度にあたり、昨年度製作した装置を用いて放射光マイクロビームX線回折システムの構築を行い、強誘電性液晶の局所層構造の研究を行った。さらに外場(電場および温度変化)に対する層構造の変形応答を研究するための電圧印加装置および加熱装置の製作を行った。 本研究で用いた放射光X線マイクロビーム光学系は、高エネルギー物理学研究所放射光実験施設において得られる放射光をX線源として申請者らが開発してきたもので、1μm以下の空間分解能が得られる。X線光学系自体は汎用性のあるものであるが、本研究目的に対して光学系の最適化を更に行った。マイクロビーム実験では偏芯がsub-μm以下のX線ゴニオメータが必要であるので、エアベアリングを用いた回転テーブル(昨年度予算で製作)をシステムに組み込んで性能が十分であることを確認した後、測定に用いた。 強誘電性液晶には昨年度の予備実験に用いたCS1014を引き続き使用した。代表的な層構造欠陥であるzig-zag欠陥のうち、高空間分解能を要求されるnarrow wallと呼ばれる数μm幅の欠陥構造について実験を行った。その結果、narrow wall欠陥領域で層法線が位置の関数としてωおよびχ方向に湾曲していることが分かった。この構造はnarrow wallとラビング方向とのなす角度にも依存していることもわかり、同じくスメクティック液晶の層構造欠陥であるfocal conicとの関係が示唆された。従来からのモデルとの比較を行った。更に、静電場あるいは矩形波電場を試料に印加することにより、特に欠陥領域での層構造の完全性が高くなることが分かった。その原因としては静電トルクの可能性が指摘された。また相転移点の高温側、低温側の層構造の乱れは互いに関係している場合もあるが、時間と共に緩和される現象も見出された。
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