気相合成ダイヤモンド表面は、(1)(111)面及び(100)面ともに水素処理により電子親和力がゼロまたは負になり、(2)十分な量の酸素吸着が生じると電子親和力が正になるが、(3)これらの酸素吸着面に対して適当な紫外光照射を行うと吸着酸素が放出され電子親和力が減少する。これらは、表面吸着物による表面電気二重層の値の変化に起因すると考えられる。しかし、通常に水素ガスに少量炭素源ガスを含む原料ガス雰囲気中で形成されたダイヤモンドは表面近傍に欠陥を多く含む層があり、表面の結晶性を良くすることが重要であることが判明した。 負の電子親和力を利用したトランジスタ類似構造の電子エミッター素子構造やその形成プロセスを提案し、ショットキー接合型のダイヤモンド薄膜の接合構造を用いた素子を作製した。その結果、多結晶ダイヤモンド薄膜を用いた素子でも、エミッション電流の値そのものは小さいものの、駆動ダイオード電流に対するエミッション電流で表わした電子放出効率は数%に達する試料を得た。得られたエミッション電流と、駆動ダイオードへの印加電圧とを、F-Nプロットすると直線的な関係があり、電位障壁を電子がトンネル効果により透過する過程が含まれていることが示された。しかし、エミッション電流を増加させると、電子エミッション効率が1%以下に低減したが、これは多結晶中の粒界や膜中の欠陥によるキャリアの再結合によるものと推察される。しかし、現時点ではミクロスケールの構造とエミッション電流との相関は明らかにできなかった。
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