研究概要 |
本年度の主な研究成果は下記の通りである。 ・イオンの電子励起脱離: Ar, Kr, Xe固体に電子線を照射し,1価/2価イオン,イオン化ダイマーの脱離収率の入射電子エネルギー依存性を測定した.励起子対の生成により,Arでは脱離が起こり,Kr, Xeでは起こらないことを確認した.これは,固体の電子親和力が負であるArでは,励起子対生成→Cavity Ejection→自動イオン化という機構が起こり,正であるKr,Xeでは上記の過程の中のCavity Ejectionが働かないことに対応している.また二重イオン化によっていずれからも1価イオンの脱離が確認できた. ・Neの準安定粒子の光励起脱離:飛行時間質量分析計の分解能を向上し,生成する励起子の種類と脱離エネルギーの間の相関の詳細を明らかにした.特に表面にのみ存在する2p53p状態の励起子からの脱離について,励起エネルギーと脱離運動エネルギーの間に複雑な関係が存在することを実験的に明らかにした.その理論的解釈を現在進めている. ・物理吸着した水素の影響:ずいぶん以前から表面に吸着した不純物の影響が指摘され,10-8Pa程度の超高真空中での実験が不可欠であったが,そこでも常に主残留気体成分の水素の影響の有無が気になっていた.Kr固体表面に水素を吸着させ実験を行い,準安定粒子の脱離収率の著しい増加を確認した.水素吸着により固体表面の電子親和力が負に転じた.あるいは,水素の準安定原子が脱離した,それぞれの可能性を検討している.
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