研究概要 |
光通信、光情報処理の分野においては光パルス列を時間軸上にいかに高密度に発生させるか、またその光パルス列をいかに高速に変調するかが重要な課題となっている。申請者はこのような観点から、光による光の超高速変調を目指し、量子井戸におけるサブバンド間共鳴光によるバンド間共鳴光の変調という独自の光制御光変調方式を提案し、その可能性を示してきた。ただし実験的には、量子井戸材料としてAlGaAs/GaAs系を用いていたため、サブバンド間共鳴光として用いることができる光源がCO_2レーザに限られていた。その結果、サブバンド間共鳴光波長が10.6μmと長く、そのパルス幅も100ns程度と幅広くなり、現実の光通信との整合性に問題があった。本研究ではこの問題点を念頭におき、量子井戸を構成する材料およびその構造の最適化を行い、サブバンド間遷移波長を10.6μmから、光通信において重要な2μm程度以下へと大幅な短波長化を図るとともに、こうして得られた量子井戸を用いて、ピコ秒さらにはフェムト秒領域での超高速光制御光変調を実証することを目的として研究を行っている。本補助金により,今年度得られた成果は以下の通りである: (1)サブバンド間波長短波長化のために,伝導帯のΓ谷のバンドオフセットが1.1eV以上と非常に大きくとれるGaAS基板上のAlAs/InGaAs/AlAs量子井戸を新たに研究の対象として取り上げた。成長はMBE法を用いて行った。成長温度によるIn偏折の影響を検討し,その影響を十分小さくするには成長温度として400℃程度がよいという知見を得た。また10層以上の多重量子井戸を成長しても無転位にて,良好な結晶が得られることを見いだした。 (2)まずIn組成をを0.2に固定し,井戸層幅を様々に変化させたAlAs/InGaAs/AlAs量子井戸を作製し,エレクトロリフレクタンス法により,サブバンド間遷移波長を見積もった。井戸幅9分子層程度で2.5μm以下のサブバンド間遷移波長が得られていることが判明し,In組成わずか0.2で既に大幅な短波長化がなされていることが分かった。 (3)種々のIn組成,井戸幅で多重量子井戸を作製し,n型不純物添加も実際に行って,赤外吸収測定によるサブバンド間吸収評価を行った。その結果,In組成0.4以上,井戸幅7分子層以下,成長温度400℃の時,サブバンド間波長が2μm以下となることを見いだし,2μm以下という当初の目的を達成した。 (4)本補助金により購入したOPOレーザシステムを現有のTi-Al203レーザシステムと組み合わせ,2μm程度の波長域で1-2PSという超短パルスを発する系を組み上げた。 以上の結果は,種々の学術雑誌,国際会議に発表を行った。今後は以上の結果を踏まえ,実際に光制御光変調を行ない,超高速性を実証していく予定である。
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