我々はブリュアン散乱法に光ビ-ト分光技術を導入し、従来の方法より1000倍以上高い周波数分解能を実現することに成功した。これを用いて狭い空間にトラップされた熱フォノンが、境界の存在を感じて共鳴するという現象を見出した。この測定法は、従来レーザーの角度広がりによって制限されていたブリュアン散乱測定の精度を飛躍的に向上させうる可能性を持っている。さらに小さい領域においてのみ特異構造を示す液晶などの複雑系の測定に有効である。本研究では、この現象を利用した熱フォノン共鳴ブリュアン散乱法を確立し、これを用いて境界の近傍で特異な構造や挙動を示す分子や分子集合体の振る舞いを研究する。今年度は高出力レーザーを光源とする熱フォノン共鳴測定装置を製作し、これを用いて円筒など様々な形状のキャビティでのフォノン共鳴の観察に成功した。また、微小セルにおいて問題となる迷光成分の影響を除去するために、新しい光変調方式である偏光変調方式によるロックイン検出法を開発した。これによって数100μmサイズの微小セルでの測定が可能になったほか、分散系などの必然的に多くの迷光成分をともなう系でのブリュアン散乱測定が行えるようになった。またフォノン波数がキャビティによる幾何学的境界条件によって決まるという点を利用して、MHz域の超低周波ブリュアン散乱測定を行うことに成功した。
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