研究概要 |
変形の進行にともなって発生するひずみ誘起マルテンサイト変態により,TRIP鋼は高強度,高延性,高靭性等の優れた性質を持っているが,その優れた性質を示す加工環境は非常に限定されている.TRIP鋼の特性をより広範囲な加工環境において利用するため,広範囲の環境温度下での変態を含めた変形挙動を予測できる適切な構成式を用いた数値シミュレーションを行うことは不可欠である. 本研究では,切欠先端近傍におけるひずみ誘起相変態による靭性改善機構の解明を目的とし,広範囲の環境温度下でのSUS304(18-8)鋼丸棒の単軸引張試験結果を用いてTRIP鋼構成式の高精度化を行った.次に,その構成式を有限要素法に適用して環状切欠きを有するSUS304鋼丸棒を用いた単軸引張試験の解析を行い,超微小硬度測定試験から得られたマルテンサイト相分布との比較を通して不均一変形挙動解析における構成式の妥当性を明らかにした.そして,解析結果から切欠き先端近傍における不均一な相変態が変形挙動に与える影響について検討を行い,以下の結果を得た. 最も優れた延性を示す常温付近の温度では,温度上昇にともなう駆動力の減少により変態速度が低下し,低温域では脆化を起こしている切欠き先端部においても変形に十分なオーステナイト相が無変態で残存し,それが脆化を防止している.しかも低温域での変形と比較すると応力集中の程度も低いためき裂の発生が遅延され,その結果靭性が向上するものと考えられる.
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