摩擦部品の焼け付き機構を解明するため、新しい観点に立って「焼け付き試験機」を自家設計・制作した。この試験機は回転する中空円筒端面を静止中空円筒端面に対して連続摩擦させ、両者の間に焼け付きを生じさせるもので、一見従来からある鈴木式摩耗試験機に類似しているが、二円筒間に接触荷重を与えるばねのコンプライアンスを変えることができ、したがって上円筒試片の上下動を制御できるのが特徴である。 ここに新しく設計・制作した試験機を用いて鋼同士の焼け付き試験を行なった結果、焼け付きとは摩擦面簡易生じたシビア-摩耗状態の移着粒子が摩擦面間から脱落できずに大型に成長し、摩擦面間隔を押し拡げ、摺動試片を上部につかえさせてしまう現象であることがわかった。すなわち焼け付きは摩擦中にその潤滑状態が変化(劣化)することではなく、摩耗の進行にともなっておこるものである。もし摩擦条件がきわめて微細な摩耗粒子しか発生しないマイルド摩耗を生ずる条件にあるならば、焼け付きという現象はたとえ潤滑油膜が破断しても起こらないものであることを見いだした。以上の所見よりこの試験機による焼け付き試験は工業材料の耐焼け付き性評価試験法として有用なものということができることを結論ずけた。 さらに平成8年度においては、焼け付きを防ぐために必要とされる潤滑油の最少量にまんする研究をあわせて行なった。微量の潤滑油の存在が金属の摩耗、それにともなって生ずる焼け付きを防止することは経験的に知られているが、どれほどの油量でそのような効果があらわれるか判っていなかった。この研究により摩耗低減のために最小油量が存在すること、それ以下では効果を示さないことが明らかとなった。この最小油量と潤滑油の分子量の関係を定量的に求めることができた。
|