摩擦部品の焼け付き機構を解明するため、新しい観点に立ち「焼け付き試験機」を自家設計・製作した。この試験機は回転する中空円筒端面を静止中空円筒端面に対して連続摩擦させ、両者の間に焼け付きを生じさせるもので、一見従来の鈴木式摩耗試験機に類似しているが、二円筒間に接触荷重を与えるバネのコンプライアンスを変えることが出来、したがって、上円筒試片の上下動抵抗を制御出来るのが特徴である。この試験機を用いて、種々の摩擦材料の組合せに対して焼け付き試験を行なった結果、焼け付きとは摩擦面間に発生したシビア-摩耗状態の移着粒子(摩擦面間にあって摩耗粒子として脱落する以前の粒子)が脱落できずに大型に成長し、摩擦面間隔を押し広げ、摺動試片を上部につかえさせてしまう現象であることがわかった。この事実は焼け付きが摩耗粒子の移着成長過程の一環であることを意味するものであって、焼け付きの防止には大規模な移着成長の生じないような材料組合せが必要であることが判った。さらにはたとえ潤滑状態が悪くても、あるいは摩擦中にそれが劣化しても、大規模な移着成長を起こさない乾燥摩擦状態、すなわちマイルド摩耗状態にあれば、二面間に焼け付きが発生しないことが明らかとなった。 以上の結果は、従来言われてきたような、焼け付きが摩擦温度上昇による融着現象ではなく、摩耗粒子の移着成長による機械内部荷重の増大による摩擦抵抗の急増であることを意味するものである。すなわち焼け付きの際の発熱はそれが焼け付きの原因名のではなく、上記摩擦抵抗急増の結果なのである。したがって摩擦面温度の上がらない場合でも、大規模な移着成長が起こり、かつ摺動試片の上方移動抵抗の大なる場合には焼け付きは発生するのである。そしてこの研究で用いた試験機、すなわち二円筒端面摩擦形式で上部円筒試片の上方移動コンプライアンスを任意にとれる方式が、摩擦材料の耐焼き付き性試験機として有用であることが知られた。
|