本研究は、風波の崩壊時の物質輸送が何によって促進されるのかを風波気液界面下の乱流構造と関連づけて解明することを目的とした。さらに、風波海水面を通しての炭酸ガスの輸送機構を解明すること、及び、表層の風波の崩壊現象及び物質の輸送に及ぼす温度成層効果についても水槽実験及び三次元直接数値計算DNSにより解明することをめざした。 本年度は、風波界面下に存在する温度成層が物質の輸送に如何なる影響を与えるかを主に明らかにすることを試みた。その結果、強い安定成層乱流場においては熱と物質の逆勾配拡散現象が発生し、この現象に熱および物質の分子拡散の効果が強く現れ、密度成層が温度差で作られるか塩分のように濃度差で作られるかによって拡散の度合いがかなり異なることが明らかにされた。この結果は大気境界層中で従来使用されていた物質の拡散モデルをそのまま海洋中での物質の拡散予測には使用できないことを示すに至った。さらに、この逆勾配拡散現象をDNSを用いて予測することに成功した。 一方、風波の崩壊に伴う気泡の混入が物質移動に如何なる影響を与えるかを検討するために高風速状態の風波の崩壊時に対して物質移動速度を計測した。その結果、風波の崩壊時においては気泡の巻き込みによる物質移動よりも風波の崩壊によって生成される乱流渦の表面更新による物質移動の方が支配的であることが証明された。さらに、これらの結果を基にして炭酸ガスの移動速度を現実の海洋に対して評価する方法を風波のスペクトル特性を用いて提案した。
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