放射伝熱に関する物性値逆問題は、入力として系の固体壁における熱流束、温度および放射率、また系内ガスの質量流量分布および一部のガス温度の分布を与えることにより、出力としてガス中の吸収係数分布を求める問題である。各ガス及び壁要素のエネルギー式を立てると、これらは温度、熱流束、発熱量の間の連立方程式となり、要素間の放射エネルギーの授受に関する係数行列と、ガス及び壁要素の温度の4乗のベクトルの積を、ガス中発熱量と壁面熱流束のベクトルと等置した行列形式で表される。この要素間の放射エネルギーの授受に関する係数行列が各ガス要素の吸収係数分布の非線形な関数となっているため、吸収係数を直線演算で求めることが困難であり、吸収係数分布を色々に変化させてこの係数行列の値を繰り返し求め、これらを用いて順問題を繰り返し解いて、入力として与えた各種の値が満足されるという条件で、目的の吸収係数を求めることになる。したがって、吸収係数分布が与えられたとき、この係数行列の値を高速で求めることが逆問題を解くために不可欠となる。そこで本研究では、この要素間の放射エネルギーの授受に関する係数行列が、吸収係数の分布が変わっても変化しない要素間の幾何学的位置関係を表す部分と、吸収係数の分布によって変化する部分に分離できることを新たに示し、計算時間のかかる前者の計算をあらかじめ1回だけやっておくことにより、吸収係数の分布を変化させたときのこの係数行列を短時間で算出する手法を開発した。またこの手法を用いた解析プログラムを完成させ、流れのない2次元系を対象にこの手法による放射伝熱物性値逆問題を解き、その妥当性を明らかにした。
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